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ザンド朝とカージャール朝の絵付けタイル

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絵付けタイルはイスファハーンの、マスジェデ・イマームマスジェデ・ロトフォッラーで、サファヴィー朝初期のものを見た。その一例を挙げると、

マスジェデ・イマームのタイル。
青・黒(または紫)・緑・水色・黄・白が使われている。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、サファヴィー朝のイランでは、大きく分けてモザイク・タイル、クエルダ・セカ・タイル、そして釉下彩タイル(下絵付けタイル)の3種類のタイルが製作された。
モザイク・タイルは、手間がかかることから、サファヴィー朝においては、次第にクエルダ・セカ・タイルを多く使う壁面装飾が主流になった。
クエルダ・セカ・タイルとは、正方形のタイルを施釉するために、あらかじめ文様の描線を、様々な成分を含んだ顔料で描き、その後いくつかの色彩の釉薬で塗り分ける。こうすることによって、顔料がにじみ出して、混ざることを防ぐことができる。本来は、最初に描いた描線が、焼成中に蒸発して素地が現れるが、黒色の線として残存することが多かった。クエルダ・セカ・タイルは、モザイク・タイルと比べると、比較的短期間に建築の壁面を覆うことができたので、次第にモザイク・タイルに取って代わり、17世紀建造のイスファハーンの「イマーム・モスク」においては、大規模に使用されたという。
今までは単に絵付けタイルとしてきたが、厳密にはクエルダ・セカの技法で焼かれている。ペルシア語ではハフト・ランギーと呼ばれている。
マスジェデ・ロトフォッラーのタイルも使われている釉薬の色は同じで、黒ではなく、紫であることがはっきりとわかる。

シーラーズでは、サファヴィー朝の後のザンド朝(1750-94年)とカージャール朝(1796-1925年)の絵付けタイルを見た。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、サファヴィー朝が、1722年のアフガン族のイスファハーン侵入によって、事実上崩壊したのち、アフシャール朝の短期間の支配を経て、1750年にシーラーズを首都と定めたザンド朝では、建築の壁面装飾に、それまでの青色や黄色を基調としたクエルダ・セカ・タイルに、ピンクや紫などの新しい色調が加わり、ヨーロッパ絵画の技法を取り入れ、植物や鳥、人物などを、より写実的に表現した。
その後、ザンド朝に代わって、20世紀初頭までイランを支配したカージャール朝下で、ザンド朝において試みられたタイル装飾を発展させ、ヨーロッパの装飾文様に加えて、文学、宗教的説話などから題材をとり、より具象的なテーマを好んで描いたという。

カリム・ハーンの城塞
城塞といっても焼成レンガの壁に囲まれた内部は広い庭園と宮殿になっていて、東側の目立たない門の上にこんなタイル絵画があった。
人物や動物などが描かれているが、とても写実的な表現とは思えない。それに中央の主題は、主人公が敵を討ち負かしているというよりも、角と尻尾の生えた怪物に短剣を振りかざしている。本当にザンド朝期のタイル装飾だろうか。
ピンク・茶色などがサファヴィー朝になかった色が使われているだけでなく、同色を濃淡を付けて立体感を表現するなど、絵画のような筆遣いが見られる。

パールス博物館はザンド朝の迎賓館として使われていた。
従来から見られるスパンドレルの蔓草文だけでなく、下のパネルには、地面から生え出した細い3本の木が、幹を絡まらせながら上に伸びて、いろんな花を咲かせている。
百花繚乱する中で、2羽の小鳥が留まって、天上の楽園を表しているようだ。花はあまり写実的な表現には思えないが、中にはピンクのバラも描かれているみたい。
別のパネルには下中央の花瓶から伸びる生命の樹が描かれている。
壺の左右にいるのは足の長い鳥ではなく、青い木の幹に留まっているのだった。

マスジェデ・ヴァキールは1773年銘のあるザンド朝のモスクだが、壁面装飾は完了しないままになっていたらしい(『GANJNAMEH6』より)。北イーワーンには1827年の銘があるので、カージャール朝期のタイル装飾だった。通りで全体にピンクがかっているわけだ。
ムカルナスは白っぽい。
平らな面には1枚のタイルが、三角状に凹んだ面には2枚の二等辺三角形のタイル、もう少し複雑な凹面には3-4枚のタイルを組み合わせている。全て植物文の絵付けタイルだが、地はコバルトブルーか白、枠の色も黄やトルコブルーと、入念に配色されている。植物文もこれまでにないものだ。
ムカルナス頂部の傘状の部分はそれぞれの凹面を8枚の絵付けタイルで作っているが、目地が空きすぎている。
イーワーンの側壁パネルにも天上の楽園が描かれている。
樹木の中央にはアヤメが出現。ヒヤシンスのような花もあり、樹木に咲くのは青とピンクのバラ。
イーワーン脇の壁面には色タイルを幾何学形に切って幾何学文様に組み合わせた文様帯の中に天上の楽園のパネル。
ここにもアヤメが描かれ、バラの花は青・ピンクの他に黄色もある。

マスジェデ・ナスィーロルモルク
『GANJNAMEH6』は、入口通路の銘文には1876年(ヒジュラ暦1293)とあるというので、カージャール朝期に創建されたモスクのよう。
イーワーン脇の上部。チェリーピンクはほぼバラを描いているみたい。
下の壁龕内だけが幾何学形に矩形の色タイルで幾何学文様をつくっている。他は絵付けタイルの植物文など。
その間の矩形のパネル。
ここは黄色が勝っているが、花はやはりバラ。一部貼り間違いがある。
その左下
ヨーロッパから請来された花瓶だろうか。それに盛られたバラやアヤメなどは切り花である。
イーワーンはピンクと青。
スパンドレルは赤い茎の蔓草。インスクリプション帯に描かれている蔓草の花はやはりピンク。
ムカルナスの平らな面には幾何学文がある。
幾何学形だけにしろ、モザイクタイル(ペルシア語でモアッラグ)という技法は残っている。
入口上のドームも幾何学文のモザイクタイル。
やつぱりピンクが入っている。
北イーワーンは複雑な造りをしている。
頂部もやはりピンクが多い。
ほぼバラ。
南イーワーン
見上げると、
ムカルナスには幾何学文のモザイクタイルと、やっぱりバラが多い。






関連項目
シーラーズで朝散歩
イスファハーン、マスジェデ・イマームのタイル
マスジェデ・シェイフ・ロトフォッラーのタイル


※参考文献
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市立オリエント美術館
「GANJNAMEH6 MOSQUES」 1999年


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