オルジェイトゥ廟 イル・ハン朝、1307-13年 イラン、スルタニーエ
『世界美術大全集東洋編17イスラーム』は、14世紀になると、いくつかの重要な新しい変化が見られた。それらの作例のうち最も重要なのは、ソルターニーイェにあるウルジャーイトゥーの墓廟である。それは、広大で開かれた敷地の真ん中に建てられた巨大な八角形の建物で、巨大なドームがヴォールト天井の回廊によって取り巻かれ、8基のミナレット状の塔を冠のように戴いているという。
ドームはなんとなく新しい感じ。
遠方から眺めるとドームはこんなに高く大きいものだった。建物自体は低くずんぐりと見えるが、これは、前方の遺構で下部が隠れているため。
現在の青いドームは修復されたものであることが、『COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE』の図版によって判明した。
同書は、ウィルバーによって、ペルシアでタイル貼り廟の現存最古のものとされているという。
軒に巡る二段のムカルナスは古いままかも
ムカルナスには空色と紺色で幾何学文様がつくられている。しかも、下段の広い画面では、8点星をつくる空色の組紐が浮き出ている。モザイクタイルというだけでなく、凹凸もある。
入口上部のスパンドレルには二色の組紐が複雑に絡み合っている。
8点星というよりも8弁の小さな花が一つだけ。実は、その花を花弁状に囲む空色の組紐が、この絡みの元なのだ。
平面図(『イスラーム建築の世界史』より)
○数字は写真のイーワーンやアーチのある場所を示しています。
内部は、最下段の壁面に、空色嵌め込みタイルによる大きなインスクリプションが。
妙に凹凸があったりする。
こんなネコの目のような菱形タイルのある文様帯も。
⑥モスクへと繋がる二段アーチの面のタイル装飾が、漆喰装飾がなくなり見られるようになっている。
『ペルシア建築』は、内部の壁面は、当初、明るい黄金色を帯びた煉瓦で仕上げられ、部分的に小さな淡青色のファイアンス・タイルを嵌め込む方法で、角ばったクーフィー書体の大インスクリプションが表されていた。しかし1313年、この内装は変更され、プラスターを用いて再装飾されたという。
側壁には幾何学文様とそれを囲む組紐の間に空色タイルが嵌め込まれている。
この辺り、暗かったので、全体にピンボケ気味ですが、資料として掲載します。
5点星と10点星の間に文字が入り込んだ大きな文様の不規則な地にも空色が嵌め込まれている。
ここにも10点星を基本とした幾何学文様。
10点星は焼成レンガのインスクリプションで、その地には空色だけでなく紺色タイルも嵌め込まれているみたい。小さな丸いタイルを中心に、文字を放射状に配置している。
浮彫タイルの六角形・五角形・菱形や、小さな三角形にまで空色の組紐を嵌め込んでいるのだが、幾何学形の浮彫タイルや焼成レンガの組紐よりも空色タイルの方が沈んでいる。ここでも凹凸のあるモザイク装飾があった。
こちらは10点星の浮彫タイルに空色タイルの組紐が放射状に展開して複雑な文様をつくっているが、その輪郭は、傾きの異なる2つの五角形。
端なので10点星の半分だけ。ここの四角形タイルは紺色タイル。
10点星の浮彫タイルを中心として、放射状に展開する矢印のような幾何学文様と、そこに嵌め込まれている空色タイルの大きな文様。
その縁にある文様帯は左右対称に上へ上へと伸びる蔓草文。
壁面が折れるところにはこんな楽しい幾何学文様も。
付け柱には空色・紺色そして素焼きタイルではなく、白色タイルが鎖のように絡み合う文様。
その根元には四弁花文が。
またピンボケ。でもさっきのとはまた違った文様の貴重なモザイクタイル。左端にインスクリプションもあるし。
二層目にもモザイクタイルの現れたアーチやイーワーンがあった。
① 漆喰装飾のムカルナスの頂部が剥落してタイルが見えている。
3色の長方形タイルで菱形文様をつくっていたらしい。
③アーチ部分と外側の壁面がモザイクタイルだが、タイルの釉薬が剥落してしまったことが、残っている色タイルからわかる。
内側は長方形色タイルで文様をつくったムカルナス。それぞれのムカルナスの文様は左右対称になっている。
ムカルナスの下部もタイルの釉薬が剥がれている。
アーチの下
その続き。アーチもこんな文様だったのでは。
④モザイクタイルの現れたイーワーン
奥のアーチ頂部。③のアーチと同じ文様。
イーワーンの壁面。文様は不明。
奥壁リュネットには、菱形空色タイル8辺と小円形紺色タイルで花文或いは8点星を、4点星空色タイルと共に、紺地に浮き出したモザイクタイル。
その下のインスクリプション帯では、焼成レンガで組紐のような文字を浮き出し、地に空色・紺色・白色のタイルで幾何学文様をつくる。
アーチ外側の壁面にも凹凸のあるモザイクタイル装飾。インスクリプションが浮き出ている。
側壁には浅いミフラーブ形の壁龕。ここもモザイクタイルで荘厳されていた。
ミフラーブ脇の文様帯も紺は紺色タイル。そこに空色タイルの組紐で幾何学文様を編んでいるが、その中心は大きな6点星を2つ角度を変えて組み合わせている。その中はといえば、12点星が、おそらく白色と空色のタイルでつくられていただろう。
この小さな区画はなんだろう。その中には、六角形の地文様に、小円の周囲に変形四角形を巡らせ、6点星とする。ここでも6点星が浮き出ている。
⑥ 側壁の腰壁には斜格子文、その中に4個の空色タイルを嵌め込んでいる。その右端の文様帯はこれまでにないシャープなもの。
左隅に少し見える奥壁は寝湯やが剥がれてはいるがモザイクタイル。
アーチには組紐文、イーワーンには幾何学文様のモザイクタイルがあった。
かすかに残る釉薬やタイルの胎土の色によって文様を推測することはできる。紺色・白色・空色タイルで構成していた。
反対側の側壁。
アーチの組紐文が少しだけ残っていた。組紐をやや曲線ぽく繋いでいる。その中に浮かび上がるのは入れ子の5点星。花弁に見えるものも。
その下には部分的に8点星とアーチ形の空色タイルが嵌め込まれており、その続きには斜めの線が強調された空色タイルと素焼きタイルのモザイクだが、五角形の区画にはロセッタ形の、三角形の区画には三角形の空色タイルが嵌め込まれている。ここも凹凸がある。
付け柱は六角形の空色タイルと6点星の素焼きタイルの組み合わせ。
漆喰壁に開けられた「窓」一覧
正方形と長方形の組み合わせだが、凹凸をつけている。地は空色タイルの痕跡があるが、浮き出た方の色が不明。おそらく紺色タイルだろうが。
右端は八角形のタイルが縦に並ぶ文様帯。主文は12点星を中心に展開する幾何学文様のモザイクタイルだったようだ。
残っている釉薬から、薄い色の胎土は紺色タイル、赤っぽい胎土は空色タイルだったようで、12点星を取り巻く変形四角形の白い胎土は、他のタイル壁面から察すると、白色タイルだろう。
薄い黄色の素焼きタイルの中に正方形の空色タイルが嵌め込まれているが、赤い線が気になる。制作時につけられたものではなさそう。
円形紺色タイルの周囲に6つの小さな三角形り隙間があり、奥には赤っぽい色がのぞいている。その周囲に白っぽい変形四角形素焼き(或いは白色釉が剥落した)タイルが6つ、その外側に菱形空色タイルが6つ巡って文様の一単位を構成している。それを組み合わせた壁面だが、空色タイルは、素焼きタイルよれも凹んでいるので、空色タイル地に6点星が浮き出ていると言ったほうが良いかも。
小さな8点星の紺色タイル周囲に変形四角形の白色タイル、その外側に正方形紺色タイルが巡って8点星に、更に変形四角形の空色タイルが8つ並んで大きな鋭角の8点星をなしている。
もっと言うと、白い菱形タイル3つの周囲に、紺色の日本風に表現すれば幾何学的な千鳥文が配されて変形六角形を形成し、鋭角の8点星の外側に配される。そのように巡ることによって、変形六角形の中の2つの菱形が円形に並んでいるように見える。
その両外側には、紺色の地に白色の4点星が入った文様が、空色タイルの帯と交互に並ぶ。
左端は、中央に8点星紺色タイルと斜め正方形の空色タイルが交互に並ぶ文様帯だったようだが、釉薬が剥がれているために、両側のタイルの形は分かりにくい。
主文も分かりにくいが、8点星・6点星・六角形・変形四角形などの形が認められる。
こんな風に、オルジェイトゥ廟のタイル装飾は、兄が建立したタフテ・ソレイマーンの宮殿を飾ったラージュヴァルディーナのような華麗なタイルは用いられず、もっぱら、紺色・空色・白色・素焼きタイルを様々な幾何学形に、時には凹凸を付けて組み合わせたものだった。
関連項目
スルタニーエのオルジェイトゥ廟(ゴンバデ・スルタニエ)
※参考文献
「イスラーム建築の世界史 岩波セミナーブックスS11」 深見奈緒子 2013年 岩波書店
「ペルシア建築」 SD選書169 A.U.ポープ著 石井昭訳 1981年 鹿島出版会
「COLOUR AND SYMBOLISM IN ISLAMIC ARCHITECTURE」 1996年 Thames and Hudson Ltd.London
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館